仕事を知る

プロジェクトストーリー

新世代CNC「FANUC Series 500i–A」
開発プロジェクト

多様な要求にくまなく応える
次の時代を見据えたCNCを開発せよ。

工作機械の制御装置として世界中の製造現場を支えるファナックのCNC。市場から高く評価され、国内外でトップクラスのシェアを誇るものの、工作機械を取り巻く環境が大きく変化するなかで、市場の要求に応えるための新たな一手が求められていました。「このままじゃ、いけない」。そんな危機感と使命感を募らせた2016年 、ファナックのCNCが培ってきた技術を活かしながら、時代の声に柔軟に対応する新しいCNCシステム「FANUC Series 500i–A(以下500i-A)」の開発プロジェクトチームが発足。CNCの新たな1ページをひらいた新世代CNC開発プロジェクト。当時のメンバーに話を聞きました。

  • M.M.

    2001年入社
    FA研究開発統括本部 ハードウェア研究開発本部
    CNCハードウェア開発三部 部長

    入社当時はサーボ制御用の通信回路の設計に携わり、経験と実績とともに現在はLSIの設計や部署のマネジメントに従事。当プロジェクトでは、ハードウェアの研究開発を担当。

  • Y.S.

    2013年入社
    FA研究開発統括本部 ソフトウェア研究開発本部
    CNCソフト開発部二部一課 主任

    若手メンバーとして当プロジェクトに参加し、HMIと呼ばれる操作画面の開発を担当。現在の業務は、CNCに関係するPCアプリケーションの開発に携わっている。

chapter01
プロジェクトの背景/目的

時代は変わる。
CNCも、変わらなければ。

プロジェクト立ち上げのきっかけと、その目的とは?

M.M.

プロジェクトのはじまりは2016年。より高度な加工性能はもちろん、環境負荷低減や労働力不足への対策、工場全体の最適化、それらのために必要なデジタルサービスを含む利便性の追求など、CNCへの要求が複雑化してきていることをひしひしと感じていた頃でした。

当時、多くの社員も同じように、『既存のCNCの延長線上で開発を行うだけでは、いずれは要求に応えられなくなる時が来るのではないか』という危機感を抱いていました。そんななか召集されたメンバーは、私を含む6名。最初は小規模なプロジェクトチームからのスタートだったんです。

Y.S.

私は、最初のプロジェクトチーム発足から1年後に、プロジェクトに参画しました。大量生産から少量多品種生産への市場の流れとも重なり、これまで以上に工作機械におけるCNCシステムへの要求が複雑になっていることを私自身も感じていたので、またとないこのチャンスに胸を躍らせていました。
高度で複雑な要求に応えるため、従来のCNC技術の強化に加えてIoTやAIなどのデジタル技術を取り込んだ新しいCNCを開発することが、このプロジェクト最大のミッション。しかしそこには、我々の想像をはるかにこえる難題が待ち受けていました。

chapter02
開発の課題と解決

CNCの徹底理解が不可欠。
数百回にもおよぶ意見交換を実施。

直面した課題を、どのように解決していったのか?

M.M.

当社のCNCの機能開発は、もともとのアーキテクチャをベースに複雑化し、分業化していった歴史があります。したがって、CNCが有する様々な機能に応じた各分野の専門家はいるものの、全体を俯瞰できるシステム設計者がいない状況だったんです。つまり、“縦割”になっていた各機能の開発に“横串”を入れるようなかたちで全体を見通したうえで、CNCの構造を見直す必要がありました。

CNCを一から見直すという自由度の高さゆえに、はじめはどのように考えていいのかさえもわかりませんでした。そこでまず行ったのが、各機能の担当部署の専門家へのヒアリングです。既存のCNCを徹底的に理解するためには、ハードウェアとソフトウェア両方の各機能ごとのアーキテクチャに対する膨大な要件整理を避けていては、決して前には進めないと考えたからです。CNCの重要な機能である軸制御に関しては、ゆうに200回を超える意見交換を実施しました。そこから得た情報をもとに、軸制御から制御信号の入出力制御、ネットワークの制御、CNCの制御などに展開し、プロジェクト発足から2年の月日を経て、ようやくCNCへの要求を満たす仕様を打ち出すことができました。

操作性とリアルタイム性の両立のために、膨大なデータ処理を地道に最適化する。

Y.S.

そのうえで国籍や年齢によらず、より使いやすい新しいHMIを開発することが重要なポイントとなりました。より自然に直感的に、いわばスマホライクに操作できる表示画面をめざすことで、工作機械そのものの生産性を向上させる狙いがあったからです。また、国際規格への適合も非常に重要な課題としてありました。要求が膨大かつ複雑…。自社開発でこれらすべてを満たすのに限界を感じていたのも事実です。

これまでは基本ソフトウェアなども自社開発してきたけれど、500i-Aにはオープンなソフトウェアをどんどん採用していってみてはどうだろうか。議論と検討を繰り返し、この発想の転換に至ったことが課題解決の糸口となりました。オープンなソフトウェア技術を評価しながら導入し、部分的なソフトウェアの置き換えを進めることにしたんです。

ところが。

オープンなソフトウェアは使い勝手がよくなる反面、リアルタイムの制御によくない影響が出てきてしまいました。いくら操作性が向上したとしても、リアルタイムでしっかり加工できなければ本末転倒です。なんとか操作性とリアルタイム性を両立させたい。考えたのは、各処理を分散させ、さらに各ソフトウェアを最適化すること。オープンなソフトウェアでまかなえる処理はそのままに、リアルタイム性が必要な処理には自社のソフトウェアを採用するといった具合に、一つひとつの処理を地道に評価することで、やっとの思いで総合的な性能に重きをおいたうえで問題をクリアすることができたのです。

M.M.

加工のCPUやHMI のCPUを分散させ、データの流れを滞りなくすること。これは非常に重要な作業だと思っていました。要するに私たちが開発しなければならないのは、目の前の「500i-A」であることに間違いないのですが、この先のまだ見ぬ未来の機能開発全般を見据えたプラットフォームをつくることが、このプロジェクトの本質的なゴールだったように思います。

chapter03
プロジェクトを振り返って

異なる分野の開発者たちが、
垣根をこえて、ひとつになった
プロジェクト。

プロジェクトを遂行するなかで、印象的だったこととは?

M.M.

設計を一から見直し、工作機械を自然に制御し、実際の加工性能の向上や工作機械における操作性を徹底的に追及したCNC。「500i-A」が完成したのは2023年のことでした。思えば、このプロジェクトでは、ハードウェア開発者とソフトウェア開発者がたびたび議論を行っていたことも印象的でした。通常の業務ではなかなか見られない光景でしたよね。

Y.S.

そうですね。ソフトウェアの構造、ネットワーク、HMI、加工など、ソフトウェアの処理を分散させるところでも、CPUやメモリサイズについてハードウェア開発者とさまざまな議論を交わしました。ソフトウェアの開発者が、ハードウェアの設計にもコミットしていったというのは非常に象徴的だと思います。

M.M.

また、プロジェクト発足時は6名だったメンバーが、最終的には50名規模のビッグプロジェクトになっていました。手探りの状態からのスタートだったからこそ、検討を重ねるごとにタスクもどんどん増えてきて人的リソースが必要となりました。

Y.S.

そのうえでいかに効率的に開発を進めるのか、プロジェクトの進め方をチームで何度も話し合いました。ハードウェア、ソフトウェアの垣根をこえて開発体制を意見交換できたことにより、これまでの開発手法をもアップデートすることができたのではないでしょうか。

M.M.

プロジェクトのはじめに、各機能の専門家にヒアリングしたと言いましたが、ヒアリングの対象は、今も世界で活躍するCNCを支えてきた上司たち。ヒアリングに対してもとても協力的で、「将来のためによいものを開発したい」という思いはひとつなんだと実感しましたね。

chapter04
今後の展望

本当のはじまりは、ここから。
製造現場の生産性の向上のために、
未来を見据えたアップデートを。

500i-Aの今後の展望や事業の将来について

Y.S.

開発段階でどんどん人的リソースが必要になったのも、それだけCNCは複雑な構造であるということ。実際に、そんな複雑なCNCをグローバルに供給できている企業は、世界的にもほんの数社しかありません。この先、500i-Aが世界中の製造現場で生産性向上へ貢献していくことで、お客様からの信頼をさらにつみあげていきたいです。

個人的には、このプロジェクトで身につけた技術を、新しい世代の仲間にシェアしていきたいですし、また新たなCNC開発を行う際には、自分の力を役立てていきたいですね。そんなことを思いながら、日々の開発業務に取り組んでいます。

M.M.

CNC内部もそうですし、CNC制御部とデジタル技術部との連携も、データのやりとりが非常にスムーズに行える根幹のプラットフォームをつくれたということで、これをベースにさまざまなデジタル技術やHMI技術をより効果的に活用できるCNCが誕生しました。製造業の生産性の向上に寄与するために、今後も手を緩めずにアップデートしていきます。

また今回のプロジェクトで、CNCの全体構造に対する理解が深まりました。培った知識とここで構築された開発者同士の人間関係をもってすれば、今後もいい開発ができるだろうという自信や期待感がありますね。

(※所属・役職は取材当時のものです。)