ファナックのオープンプラットフォーム

ぶどうの摘粒作業の自動化

人とロボットが協働するスマート農業の未来

人手不足や高齢化が進むぶどう栽培の現場で、ファナックロボットとAIによる自動化が動き出しています。
山梨大学の研究チームでは、ファナックのオープンプラットフォームを活用したフィジカルAIによって、摘粒作業の省人化に挑戦しています。厳しい農業環境で実証を重ねながら、人とロボットが協働するスマート農業の未来を切り拓く研究を取材しました。

ぶどう農家が抱える課題

深刻化する人手不足と高齢化

山梨県は国内有数のぶどうの産地として知られています。しかし近年、農業分野では深刻な人手不足と高齢化が進んでいます。
山梨県が公表した統計データによると、山梨県の基幹的農業従事者数は5年間で約17%減少しており、65歳以上が70%以上、70歳以上が約60%を占めています。こうした状況は、ぶどう栽培においても大きな課題となっています。特にシャインマスカットに代表される高品質なぶどうの栽培には、熟練した技術と経験が求められます。

熟練技術が求められる摘粒作業

その中でも「摘粒」は、最終的な商品価値を左右する重要な作業です。房の形や粒の大きさを整えるため、作業者は一粒ずつ状態を見極めながら不要な粒を取り除かなければなりません。そのため、高い技術と集中力が求められるだけでなく、品質にも大きく影響します。
さらに摘粒は短期間に集中的に行う必要があり、6月には約10日間で3,000房を処理しなければならないケースもあります。作業負荷が大きい一方で、季節雇用者に任せることも難しく、人手不足が深刻化する中で大きな課題となっています。

AIとロボットによる課題解決へ

こうした課題を解決するため、山梨大学の研究チームはAIとロボットを活用した摘粒作業の自動化に取り組んでいます。人の経験や知識をAIに取り込みながら、人とロボットが協働する新たな農業体系の実現を目指しています。

ぶどうの摘粒自動化システムの外観

フィジカルAIで実現する摘粒の自動化

山梨大学の研究チームは、ファナックの協働ロボット「CRX-5iA」を中核に、2種類の深度センサと摘粒用グリッパーを組み合わせたフィジカルAIシステムを構築しました。各構成要素が連携することで、ぶどう房の認識から摘粒作業までを自動で実行します。

主な構成要素

  • ・協働ロボット「CRX-5iA」
    エンドエフェクタとして、先端に2種類の深度センサと摘粒用グリッパーを搭載し、AIが判断した位置に制御します。
  • ・環境用深度センサ
    ぶどう棚や周辺環境の点群データを取得し、対象となる房の検出やロボットの経路探索に活用します。
  • ・近距離用深度センサ
    房を近距離から詳細に計測し、3次元モデルの生成や摘粒対象の推定に必要な情報を取得します。
  • ・摘粒用グリッパー
    スライド式グリッパーで、AIが判断した不要な粒を把持して取り除きます。
  • ・移動台車
    ぶどう園内を移動し、ロボットを作業対象の房まで運びます。
ぶどうの摘粒自動化システムのハードウェア構成

見て、考えて、動く ― フィジカルAIで摘粒する仕組み

摘粒作業では、まず環境用深度センサがぶどう棚や周辺環境の点群データを取得します。AIはそのデータから対象となる房を検出し、周囲の枝や障害物を避けながらCRX-5iAが房へアプローチできる経路を計画します。
CRX-5iAが対象の房へアプローチすると、近距離用深度センサが房を詳細にスキャンします。取得したデータから房の三次元モデルを生成し、粒の位置や房の構造を高精度に把握します。

ぶどうの摘粒自動化システムがぶどうの房をスキャンするまでの流れ

さらにAIは、この三次元モデル上で房の成長シミュレーションを実行します。そして将来の理想的な房の形状を予測し、成長の妨げとなる摘果すべき粒を推定します。これまで熟練農家が経験や知識に基づいて行っていた判断を、AIがデータに基づいて行う点が本システムの特徴です。

ぶどうのスキャンデータから成長シミュレーションを行い摘粒すべき粒を判断する様子

摘粒対象の粒が決定すると、その位置情報がCRX-5iAへ送られます。このときCRX-5iAは、AIがカメラで粒を追跡している情報をリアルタイムに参照しながらエンドエフェクタの位置を制御し、摘粒対象へ正確にアプローチします。その後、摘粒用グリッパーが粒を把持して取り除くことで、房全体の品質を維持しながら摘粒作業を行います。

摘粒対象の粒をグリッパーで取り除く様子

このように本システムは、実環境を認識して仮想空間上に房の三次元モデルを生成し、AIが解析・意思決定を行った結果をCRX-5iAが現実世界で実行します。実環境の認識、仮想空間での解析・意思決定、そして現実世界での作業実行をリアルタイムに連携させている点が、本研究におけるフィジカルAIの特徴です。

ファナックロボットCRX-5iAが選ばれた理由

農業ロボットに求められる性能

摘粒ロボットには、工場とは異なる農業特有の要求があります。屋外の圃場では直射日光や土埃にさらされ、ハウス内では高温多湿環境での運用が必要になります。また、摘粒対象となる粒は非常に小さく、高い位置決め精度も求められます。さらに、実際の農作業では人とロボットが同じ空間で作業するため、安全性も欠かせません。

こうした条件を満たすロボットとして、山梨大学の研究チームはファナックの協働ロボット「CRX-5iA」を採用しました。

主な選定理由

  • ・IP67対応の高い防塵・防水性能
    炎天下の圃場や高温多湿なハウスなど、過酷な農業環境でも安定して運用可能。
  • ・±0.1mm以下の高い繰り返し精度
    摘粒対象へグリッパーを正確にアプローチさせるために必要な精度を実現。
  • ・協働ロボットの安全性
    安全柵なしで人と同じ作業空間で運用でき、生産者との協働作業に適している。
  • ・6軸の自由度と最大約1mのリーチ
    棚栽培されたぶどう房に対して、高い自由度とリーチを活かしてさまざまな方向からアプローチできるため、複雑な圃場環境でも柔軟に作業可能。
  • ・フィジカルAIを実現するオープンプラットフォーム
    このように、CRX-5iAは農業ロボットに求められる耐環境性能、精度、安全性、作業能力、オープンプラットフォームを高いレベルで兼ね備えていたことが評価されました。
     

実証実験で確認された高い性能

研究チームは、昨年から圃場やハウスで実証実験を継続してきました。摘粒作業が行われる6月の屋外作業や、収穫期の高温環境、さらには高温多湿のハウスにおいても、CRX-5iAは安定して動作し続けました。実験期間中に大きなトラブルや故障は発生しておらず、研究チームからも「CRX-5iAを選んで本当に良かった」という声をいただいています。

実環境での安全性と耐久性の両立は、農業ロボットに求められる重要な要件の一つです。農業現場では枝や樹体との接触が避けられない場面もありますが、CRX-5iAの接触停止機能によって、ロボット自身だけでなく周囲の作物を保護しながら安全に作業を行うことができました。

さらに、別途行っている収穫実験では現時点で既に概ね9割の収穫成功率を達成しており、ファナックの協働ロボットが持つ高い精度と信頼性を農業分野でも活用できることを実証しました。

オープンプラットフォームが支えるフィジカルAI

ファナックは、フィジカルAIの実現を支えるオープンプラットフォームとして、ROS 2対応、Python対応、Stream Motionの3つの軸を提供しています。山梨大学の摘粒自動化システムは、このオープンプラットフォームを活用し、CRX-5iA、深度センサ、AI画像認識、経路探索、摘粒用グリッパーなどを統合したフィジカルAIの実装事例です。

AI・センサ・ロボットをつなぐ開発基盤

山梨大学の摘粒自動化システムでは、CRX-5iA単体で作業を行うのではなく、深度センサ、AI画像認識、経路探索、摘粒用グリッパーなど、複数の技術を組み合わせて制御しています。ぶどう房の認識、三次元モデルの生成、摘粒対象の判断、そしてロボットによる作業実行までを一連の流れとして機能させるには、各要素を柔軟に接続できる開発基盤が不可欠です。

そこで活用されているのが、ファナックのオープンプラットフォームです。ファナックが提供するROS 2ドライバを通じて、研究チームが構築したAI駆動の制御パイプラインとCRX-5iAを連携させることができます。これにより、センサで取得した情報やAIの認識結果をロボット制御へリアルタイムに反映し、フィジカルAIとして実環境で動作させることが可能になりました。

リアルタイム制御が可能にする高精度な摘粒

摘粒作業では、対象となる粒が常に同じ位置にあるとは限りません。屋外の圃場では風によって房が揺れるほか、粒を取り除く際の振動によっても対象位置が変化します。そのため、一度決めた座標へロボットを動かすだけでは、正確な摘粒は困難です。

研究チームのシステムでは、AIが粒の位置をリアルタイムにトラッキングし、その情報をCRX-5iAの制御へフィードバックしています。ROS 2ドライバを活用することで、AIによる認識システムとロボットを高速に連携させ、1msの超高速通信による遅れの少ないリアルタイム制御を実現しています。

これにより、CRX-5iAは揺れる房や変化する対象位置に追従しながら、摘粒対象へ正確にアプローチできます。センサで「見て」、AIが「考えて」、ロボットが「動く」フィジカルAIを実現するうえで、遅れの少ないリアルタイムな制御連携は極めて重要な役割を果たしています。

研究開発を加速するオープンな拡張性

人が活動する実空間では、作業環境や対象物の状態が一定ではなく、求められる動作や周辺機器も用途によって異なります。これからのロボットには、専用機としての性能だけでなく、センサ、AI、アクチュエータ、エンドエフェクタなどの外部技術と柔軟に接続できるオープンな拡張性が求められます。

本研究では、CRX-5iAに環境用深度センサ、近距離用深度センサ、摘粒用グリッパー、AI画像認識などを組み合わせています。Pythonで開発したAIソフトウェアを、ファナックのオープンプラットフォームを通じてCRX-5iAと接続することで、センサ、グリッパー、AI、ロボットを一体のシステムとして連携させ、実環境で検証するための基盤を構築しました。

特に、ROS 2ドライバによる外部ソフトウェアとの接続性やリアルタイム制御は、センサ、AI、ロボットを一体のシステムとして動作させるうえで重要な役割を果たしています。ロボットを単体の装置としてではなく、AIやセンサ、アクチュエータなどの外部技術とつながる開発プラットフォームとして活用できることが、スマート農業に向けた研究開発を加速しています。

スマート農業の未来へ

山梨大学の研究チームは4年後の社会実装を目指し、基本機能の実装から実用化に向けた精度向上・高速化の段階へ進んでいます。
屋外では風などで房が揺れ、AIが認識した粒の位置がCRX-5iAのアプローチ中にも変化し続けるため、トラッキングやパスプランニングのさらなる処理速度向上が課題です。労働時間4割削減という目標に向けて、今後はトラッキングモデルの改善、トラッキング頻度の最適化、強化学習を用いたパスプランニングの最適化に取り組み、CRX-5iAの高速な処理性能をさらに引き出していきます。

また、今後は気象センサや土壌センサなどから得られるデータも活用し、圃場全体のデジタル化を進めていく計画です。気象・土壌・房の成長データを組み合わせることで、房の成長シミュレーションの精度を高め、将来的にはデジタルツイン技術を活用した圃場全体の自動化を目指しています。

人手不足や高齢化が進む中で、すべての作業をロボットだけで完結させるのではなく、人とロボットが協働しながら作業を支援する仕組みが求められています。ファナックのオープンプラットフォームを活用した山梨大学とファナックの取り組みは、フィジカルAIによって熟練作業を支援し、スマート農業の可能性を広げる先進的な事例です。

関連リンク

山梨大学 茅・朱・Buayai研究室ホームページ

* ROS はOpen Source Robotics Foundationの商標です。

** Python はPython Software Foundationの登録商標です。

*** GitHubはGitHub, Inc.の登録商標です。

**** Visual Studio Code、VSCodeは、Microsoft Corporationの商標です。