産業用ロボットとは?~その種類や用途、導入のメリットを解説~
2025/08/05
コラム記事

労働人口の減少や人手不足、生産性向上へのニーズを背景に、工場や倉庫などの現場では、産業用ロボットの活用がますます拡がっています。
ここでは、改めて「産業用ロボットとは何か」について、基本的な種類や用途、導入によるメリットを紹介します。はじめて産業用ロボットの導入を検討されている方にも役立つ情報をまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
- 産業用ロボットとは
- 産業用ロボットの安全対策について
- 産業用ロボットの種類
- 産業用ロボットの主な用途
- 産業用ロボットが活躍する業界
- 産業用ロボットを導入するメリット
- 産業用ロボットの市場予想
- 産業用ロボットを導入して、生産性や品質を向上させよう
産業用ロボットとは
産業用ロボットは、いくつかの一般的な定義があります。例えば、日本産業規格(JIS)では、以下のように定義されています。
産業オートメーション用途に用いるため、位置が固定又は移動し、 3軸以上がプログラム可能で、自動制御され、
再プログラム可能な多用途マニピュレータ(JIS B 8433-1:2015)
この定義が示すように、産業用ロボットは単なる機械ではなく、プログラム制御によって多様な作業に対応できる柔軟性と汎用性を備えています。これにより、製造ラインの変更や新製品への対応が容易となり、多品種少量生産にも適した製造システムの構築が可能になります。さらに、溶接・組立・搬送・塗装など、繰り返しの多い作業を高精度かつ高速でこなすことができ、人間の作業を補助・代替する役割も果たしています。
医療・介護・接客・清掃など、人と直接関わる環境で使用されるサービスロボットに比べ、産業用ロボットは「効率性」「耐久性」「安全性」が特に重視されており、製造業において欠かせない存在となっています。
産業用ロボット
サービスロボット
産業用ロボットの安全対策について
産業用ロボットは非常に便利で有効な道具ですが、正しい知識と安全対策がなければ、思わぬ事故につながるおそれがあります。産業用ロボットを有効活用するには、安全対策の徹底が不可欠です。必ず事前に安全教育を受け、マニュアルや規格に沿って運用しましょう。安全を守ることは、あなた自身だけでなく、周囲の仲間や職場全体の安心につながります。
安全対策の中でも、安全柵(セーフティフェンス)の設置は基本的かつ効果的な手段とされています。安全柵は、作業者がロボットの稼働範囲に誤って侵入することを防ぎ、接触事故のリスクを大幅に低減します。特に高速・高出力のロボットでは、物理的な隔離が最も効果的な安全対策です。ISO 10218などの国際規格でも、安全柵の設置が推奨されています。日本産業規格(JIS B 8433-2:2015)の安全要求事項及び保護方策では、危険エリアへの接近は、ガードや保護装置などの安全防護装置によって防がなければならないとされています。日本では、労働安全衛生規則で、一定の条件を満たす産業用ロボットは安全柵が義務付けられています。
以下のような技術も安全対策に貢献しています。
● センサ技術:安全センサなどで人の接近を検知し、ロボットを自動停止することで事故を防止
● 協働ロボット:人と同じ作業エリアで安全に作業できるよう設計された産業用ロボット
技術や設備だけでなく、現場の安全意識も非常に重要です。定期的な教育や訓練、ヒヤリ・ハットの共有などを通じて、作業員が安全を意識して行動できる環境づくりが求められます。
産業用ロボットの種類
産業用ロボットにはさまざまな種類があります。以下に代表的な4種類を紹介します。
垂直多関節ロボット
人間の肩やひじ、手首に相当する関節(軸)を備えており、人間の腕の動きに似た複雑な動作や手首姿勢が可能なロボットです。6軸タイプが主流ですが、4軸、5軸、7軸タイプもあります。溶接、組立、搬送など、多岐にわたって活用されています。最近ではこの構造の協働ロボットが注目を集めています。
水平多関節ロボット(スカラロボット)
水平方向に動作する複数の回転軸と、垂直方向に上下動する軸で構成されたロボットです。組立や搬送などの工程で広く採用されています。代表的なものにスカラロボット(SCARA :Selectiv Selective Compliance Assembly Robot Arm)があります。
パラレルリンクロボット(デルタロボット)
複数のアームを並列(パラレル)に配置して先端を支持することにより、高精度かつ高速に作業できるロボットです。作業領域は狭いものの、ベルトコンベヤに流れてくる製品の高速なピッキング作業や整列作業に強みを発揮します。三角の形状から、デルタロボットとも呼ばれています。
直交ロボット(ガントリーロボット)
単軸のユニットを直角方向にいくつか組み合わせ、その軸に沿って動作するロボットです。垂直多関節ロボットなどとの組み合わせにも適しています。直線的な動作を得意とする直交ロボットは、主に組み立て作業や搬送作業において活用されています。ガントリー(枠組み)ロボットとも呼ばれています。
産業用ロボットの主な用途
産業用ロボットは様々な用途で活用されています。以下に代表例をご紹介します。
溶接
熟練技術や悪環境下での作業が必要なアーク溶接やスポット溶接を高精度かつ安定した品質で行います。連続作業や高温環境でも安全に稼働でき、溶接不良の低減や品質の均一化、作業者の負担軽減と生産性向上に貢献します。
組立
部品の位置決め、ネジ締め、挿入など精度の必要な組立作業を正確に行います。人の手ではばらつきが出やすい工程も、ロボットによる自動化で安定した生産とライン全体を効率化することができ、製品の品質を向上します。
搬送
重量物の搬送、仕分け、積み上げ(パレタイジング)などを行います。作業者の負担を軽減し、作業効率と安全性が向上し、製造工程や物流工程の自動化を推進します。
塗装
均一な塗膜を高速で塗布し、塗装品質の安定と作業環境の改善を実現します。ムラが出やすい塗装も、ロボットなら精密な制御で美しい仕上がりが可能です。作業者の健康リスクも低減され、より安全な職場環境を実現します。
洗浄
高圧洗浄、超音波洗浄、薬液などを用いた洗浄で、部品の表面に付着した油分、粉塵、切削くずなどの汚れを除去します。高圧水や薬品などを扱う危険な作業から作業者の安全を守り、負担軽減に貢献します。
検査
カメラやセンサを用いて外観検査や寸法測定を行います。品質検査で不良品の流出を低減します。AIによる画像認識技術を組み合わせることで、微細な欠陥も検出可能となり、品質管理の精度が向上し、検査時間も短縮されます。
研磨・バリ取り
製品表面の研磨やバリ取りを行います。粉塵や騒音の多い環境でもロボットなら作業環境を改善でき、仕上げ品質の向上を可能にします。
産業用ロボットが活躍する業界

産業用ロボットは様々な業界の製造現場の自動化に貢献しています。以下に代表例を紹介します。
自動車・EV
溶接・塗装・組立・検査などの工程に貢献しています。高精度な作業と安定した品質を実現し、EV化に伴う新素材や複雑な部品の製造も可能にします。次世代モビリティの製造現場を支える存在です。
機械加工
切削・研磨・バリ取り・搬送などの工程に貢献しています。多品種少量生産にも柔軟に対応でき、安定した加工品質を可能にします。熟練技術の継承や人手不足の解消にも貢献します。
食品・化粧品・医薬品
充填・包装・検査・搬送などの工程に貢献しています。衛生管理や品質の均一化を支え、クリーンルーム対応やトレーサビリティにも対応し、作業の効率化を促進します。
農業
種まき・収穫・選別・搬送などの工程に貢献しています。作業の省人化や収穫効率の向上を支え、天候や人手に左右されない安定した生産体制を可能にします。スマート農業の推進にもつながる重要な存在です。
物流
搬送・仕分け・パレタイジング・検品などの工程に貢献しています。作業負担の軽減や効率化を支え、24時間稼働による安定した物流体制を可能にします。スマート物流の推進を支えます。
電気・電子
基板実装・組立・検査・搬送などの工程に貢献しています。微細な部品の取り扱いや高精度な作業を支え、安定した品質と生産効率の向上を可能にします。高度化する製造現場に欠かせない存在です。
建設
鉄骨の溶接や取り付け、資材の搬送など、建設現場の多様な工程に貢献しています。高所や危険な環境でも安定して稼働し、作業者の安全性向上と負担軽減を実現します。人手不足や作業の標準化が求められる中、現場の頼れるパートナーとして、建設の現場を支えています。
インフラ
道路の補修工事や、資源ごみの分別作業など、インフラ設備の保守、リサイクル率の向上と環境負荷の低減に貢献しています。労働力の確保や作業効率の向上が課題となる現場において、インフラ整備を支える重要なパートナーです。
産業用ロボットを導入するメリット
産業用ロボットを導入することで、さまざまなメリットが得られます。具体的にどのようなメリットがあるのか、詳しく見ていきましょう。
省人化
産業用ロボット導入のメリットに、まず省人化が挙げられます。労働人口減少に伴う人手不足は、さまざまな業界で課題となっています。しかし、産業用ロボットは、人間の代わりとなって安定的かつ継続的に作業できるので、企業は労働力の確保という課題から解放されるでしょう。
また、産業用ロボットの導入によって、高騰し続ける人件費を削減できるメリットもあります。
生産性向上
産業用ロボットの導入は、生産性向上にもつながります。そもそも生産性向上とは、企業の投資(インプット)に対して成果(アウトプット)の比率を高め、効率的に利益を上げていくことです。ただし、人間が作業することによって、どうしても稼働時間の制約があったり、作業スピードにばらつきが生じたりして、生産性は低下します。
これが産業用ロボットであれば、24時間稼働や一定のスピードによる作業も可能となり、結果として作業現場の効率化が進むのです。
品質向上
製品の品質向上も、産業用ロボット導入によるメリットといえます。これは、産業用ロボットの作業精度が高く、作業の抜け・漏れが減少することに起因しています。
一方で、人間はミスをする生き物であり、人間による製造現場では、集中力低下による作業ミスや確認漏れでトラブルが発生することも、決して少なくありません。これらのヒューマンエラーによって、製品の品質が低下したり維持できなかったりします。それが、産業用ロボットの導入によって作業の安定化が図れるようになり、製品の品質向上が期待できるでしょう。
多品種・少量生産対応
多様化する顧客のニーズを叶えるためには、たくさんの種類の製品を小ロット生産する必要がありますが、それには多大なコストがかかってしまいます。
その点、産業用ロボットなら、プログラムの書き換えによって動作の変更が可能です。専用機とは異なり、汎用性が高いことが産業用ロボットのメリットといえるでしょう。また、作業の再現性の高さも、産業用ロボットならではのメリットといえます。
多工程対応
産業用ロボットは、プログラムや先端に取り付けるハンドやツールによって、1台でいくつもの作業工程を担うことができます。
産業用ロボットを1台導入することによって、複数の人間や工作機械が行っていた作業の省力化や生産性向上につながります。多工程対応は、産業用ロボット導入の大きなメリットといえるでしょう。
産業用ロボットの市場予想
産業用ロボットの市場は、世界的に拡大しています。特に製造業の自動化ニーズの高まりや、AI・IoTといった先端技術との融合が進む中で、市場は今後も安定した成長を続けると見込まれています。
国際ロボット連盟(IFR)によると、世界の産業用ロボット稼働台数は2024年に約428万台(前年比 +10%)、年間の設置台数(2024-2027年)は、年平均4%の増加を予想しています。
産業用ロボットの稼働台数*
産業用ロボットの年間設置台数*
*出典:国際ロボット連盟(IFR) World Robotics 2024
産業用ロボットを導入して、生産性や品質を向上させよう
産業用ロボットの導入によって、省人化や生産性向上、品質向上など、たくさんのメリットが生まれます。人材確保が今後ますます困難になっていくことが予想される中、工場における稼働を効率的かつ持続可能なものにしていくには、最新の産業用ロボットの導入がおすすめです。
ファナックの産業用ロボットは、高い信頼性と機能性、そして生涯保守の充実した保守体制により、世界中の製造現場で高く評価されています。その品質を支えているのは、機構部・サーボモータ・制御装置・ソフトウェア・センサに至るまで、すべてを自社で設計・製造している点です。さらに、徹底した試験を重ねることで信頼性を確保し、自社工場で実際に使用することで、厳しい製造環境下でも高い品質と耐久性を実証しています。
産業用ロボットの導入をお考えなら、ぜひ一度ファナックへご相談ください。